ピアノをひくところがあるのですが、その頃の私は音楽についてほとんど知識を持たなかったので、君の手紙にあったブラームスについての感想をその詩人に語らせ、そしてブラームスをひかせてあることです。そしてその詩人は作者が蔑意《べつい》をもって取扱ったキャラクターなのであるいはもしあなたが読まれたら、不愉快を感じられるかもしれないと思いますがこれは私のそういう方面の知識を持たなかったためですから悪く思わないで下さい。もっとも作者が好意を持って取扱った主人公にもあなたの手紙のなかから言葉が使ってあるところもかなりあるのです。
とにかくその詩人は作者が最もきらっている文士のキャラクターを書いたのですが、その境遇もベルーフも主人公との関係もあなたとは全く異っていて、読者にあなたを連想させる心配は絶対にないと信じますから私は安心しているのですが、ただあなたが使われた言葉がその詩人に用いられている時には少し気持ちが悪いかと思いますが、前述のようなわけですからお許しを願います。
私は今しばらく仕事を休まねばなるまいと思います。今年の春は知らぬ間に過ぎ去ってしまいました。明石の海も初夏らしく爽やかになりました。早く仕事を始めたく思います。「父の心配」というのは現代物で教養的なものです。梅雨《つゆ》がはれる頃までは仕事につくことはできますまい。それから妹が「葛の葉」というドラマを書きました。彼女ももはや二十五を過ぎますからこれからは発表させるつもりです。ではいずれお眼にかかっていろいろお話いたしましょう。
それから私はまだ疲れやすいので少し話しては休み休みして幾度にも切って話をせねばなるまいと思います。これも含んでおいて下さい。有島氏も二十日に来て下さるらしいそうで喜んでいます。[#地から2字上げ](久保正夫氏宛)
「歌わぬ人」
今朝お手紙拝見しました。明日午後来て下さるそうでうれしくお待ちします。あなたが京都から四時間もかかるところへいつも心にかけて訪ねようとして下さることをいつもうれしく思っています。ただ残念なことには私の健康が疲れやすくて長く話すことができないことです。それで少しずつ話しては休み休みして散歩したり蓄音機を聞いたりして泊ってゆっくりして、そのかわり私のからだが疲れないように私が注意することを私のあなたを迎える気持ちが愛と体とにかけているためでないことを信
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