《めまい》を感じますので、床を離れることはまだできないでいますが、これはおいおい治ると思います。この頃になってようやく少しずつ読書ができるようになりました。「哲学研究」のあなたの論文を感心して拝見しました。りっぱな学術的論文と思います。そしてそういう論文としてのりっぱなスチィールを備えているのに感心しました。あなたがこういうものを書かれるようになったことを祝福したく思います。
かつては私が志していた知的な世界へあなたが分け入られ、そして私が思いもかけなかったドラマチストになろうとしているのも不思議な気もします。けれど私はあなたの創作のほうの仕事をあなたが棄てられることはずいぶん惜しく思います。もしできたらそのほうの仕事もされてはいかがですか。しかしあなたのまれな精力をもってしても二つの方面の仕事がそのいずれかを希薄にせずにはできないようだったら考えねばなりませんね。しかしシルレルやレッシングやまたロマン・ローランなども、両方の仕事ができたのですね。ともかくこれまで書かれた創作のほうの仕事を発表されたらいかがですか。
有島さんのところへ行っていたという小説なども、私や妹がその作のどこかに関係を持っていたにしても、私や妹に対する現実の愛と尊重とを信じている以上は狭量な、穿鑿《せんさく》だてをして気を悪くしたりしないことを誓いますから、その点は御心配なく発表されてはいかがですか。私は君の小説には知的な教養的な優れた要素が非常に多く含まれていて、そしてそれは今の日本の小説に最も欠けている点と思います。
有島さんはあなたの作を読んで何といわれましたか。「青と白」などはどうなされましたか。私も近いうちに岩波から第二の本が出ます。「俊寛」と「歌わぬ人」と「病む青年と侍する女」とを集めてあるのですが、私はもっとたくさん書いてから集めて出したかったのですが、書店のほうの都合と私の生計のほうの便宜とで、貧弱な書物になって何だか気恥ずかしく思っています。そのなかの「歌わぬ人」というのは私の初めて書いた習作で、あまりモチーフがアプジヒトリッヒなので、今の私にはかなり気になる作なのですが、自分には思い出もあるし、友だちからも勧められたので一緒に集めることにしました。(それに「俊寛」だけではあまり薄くなるので)それからあなたに一つお断わりしなくてはならないのは、その作の中にひとりの詩人が
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