のひとりの小さな従妹《いとこ》が私のなぐさめを待ちわびているのを思い出しました。そしてあなたの手紙で濡らされた心で、すぐにその従妹をなぐさめてやろうと思いました。そしてすぐ車で(私は腰の神経痛で歩行がたいへん不自由になっていますので)従妹の家に行きました。車の上で私は、あなたが、正月の元日を、謙さんや江馬君やその奥さんと、たのしく往来して暮らされたのを思って心から幸福に感じました。
 あなたにはそのような類《たぐい》の幸福がこれまで恵まれることがあまりに少なかったように思われましたので、江馬君の宅で遅くまで話し込んで泊ったりなさったのですね。
 あわれな病める十八になるせむしの処女は、私を見て気の毒なほど喜びました。足がまがって歩くことがむずかしいのに塀にすがって迎えに出ました。玄関までいそいそとして、脊髄病で嫁入りできない不具者なのです。いつか病院からこの娘について、手紙に書いたと記憶していますが、その家で炬燵《こたつ》を囲んで、その娘の父母、その兄や妹たちと花合わせなどして夜になるまで遊びました。父、母は物質的な人なのに、その娘は病身なせいかもののあわれを早く知って、精神的ないい性質を持っているのです。眉の濃い大きな大きな眼を持ったいい子なのですが、体はまだ十四、五の子供くらいしか発育していないので、畸形的《きけいてき》なみじめな印象を見る人の心に感ぜしめます。この子は来客――それは親戚の人でも――があると、その醜い姿を見つけられまいために、すぐに自分の部屋ににげ込みます。父母がそうしろと命じてあるのです。初めは私にもそうしていたのです。けれど私の愛が勝って、彼女は私のものになりました。私にだけ何でも話します。私が行くと実に悦びます。私は小説をかしてやったり、たびたび手紙をかきます。いつもはひとりで裁縫などしています。昨日も夜に入ったので私が暇ごいをすると、泣くようにして私に泊ってくれよと嘆願しました。私はまけてしまって、叔父、叔母に対しては気がねでも、その子のために泊りました。今朝私としばらく二人きりになった時、その子は大きな大きな眼にいっぱい涙をためて、自分のはかなさを訴えました。私はできる限りの愛の雄弁で彼女をなぐさめ励ましました。そして暖かい日に、彼女を丹那の私の家に連れて来てやるという堅い約束をして、やっと別れて帰りました。
 その時お絹さんが、私にか
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