ません。私は妹を深く愛しています。それゆえにこの後は妹にもっときつくなろうと決心しました。甘やかすことは弱くむなしくさせるばかりですからね。私は一度は妹とも強い劇《はげ》しい関係に立たねばならない時を予感いたします。
昨日、突然、本田さんが私の宅に訪ねて来ました。結婚の話はよしてしまったのだそうです。
しばらく一燈園にいるつもりだそうです。本田さんにはアイテルなところがありませんから、一燈園の生活には適当と思って私も賛成いたしました。
私はこの頃いつも内から何か促されているようなおちつかぬ心地で暮らしています。どうにかしなければならないという気がしじゅうしています。今の暮らし方、父に働かせて、読書と散歩とをしているだけの生活がどうも心にしっくりいたしません。そうしてるうちにほかの人々との交わりと調和させねばならず、私の生活は何の特色もない、軽いものに押し流されて行くようでなりません。読書したり散歩したり、芝居やカフェや活動写真を見たり(誘われれば断われないので)して日を暮らしている生活がフリボラスな気がしてなりません。暮らし方からどうにか革《あらた》めて行かねばならないと思っています。
私は、周囲と自分との関係をはっきりさせなくては、破産しそうです。refuse することは、refuse して、今後はフリボラスなことはやめようと思います。それというのも怠慢な暮らし方をしているために、人が遠慮しないのでしょう。天香さんのようにして暮らしていれば、だれもその生活を軽い遊びで乱そうとあえてするものはありません。
今日はつまらないことばかり書きましたね。あなたは出精して労働して下さい。はたらくということはいつでも祝福せられます。私は「母たちと子たち」を四綴だけ読み終わりました。艶子の話では、まだ二綴あったそうですが、中外日報社からは四綴しか来ません、どうしたのでしょう、一応お伺いいたします。[#地から2字上げ](久保正夫氏宛 六月十一日。京都より)
久保正夫氏宛
昨日国許から電報が来て、私たち兄妹は今日午後出発して帰国の途につくこととなりました。家のうちの暗いありさまが心に浮かびます。しかし私は何もかも起こり来るものには勇ましく相対します。姉は赤児を残して逝くでしょう。そして後に複雑な問題が生ずることも予期しています。あなたのこの夏のお暮らし向きも察せ
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