でこられたのは、あなたの魂の力の非凡であったためと思います。私はあなたが後にいい家庭の主となられて、かつて得られなかったところのドメスチックの愛と睦びと、ゆったりした幸福を得られることを心から願います。
私はあなたにこそ幸福な結婚がさせたいと思います。あなたの幼ない甥たちも、母なき淋しさと不自由から、暗い影響を受けて、深いすぐれた人となるまでは、その不幸に打ち克つためにどんなにか悲しみを味わうことでしょう。父なくして耐えてこられたあなたにはその感じがいっそう強いことでしょう。私の宅にももし姉に不祥なことが起これば、母なき、おそらくは両親なき孤児ができるわけです。私はその女の児を、私の児のように愛し、そしてその不幸によって、かえって深い人生の味をさとるように育ててやろうと思います。
親のした過《あやま》ちが幼ないものの未来を支配し、その幼ないものの繰り返す過ちの種となるということは実に恐るべきことですね。罪の怖ろしいのは、他の罪の原因になることですね。艶子はすでに出発という朝、父の音信が来てしばらく帰らないことになりました。私は腸と痔とがまた悪くなったのでまことに困っています。病気には忍びなれてはいるものの、どうして私にこんなにしつこく試みが来るのであろうかと、弱くなる時は怨めしくもあります。あなたもからだを大切にして下さい。無理をして働きなさるな。
艶子は炊事をなれない手でしています。妹のような性質の女には、炊事はよほど無意味な気がするらしいです。そのように詩を読むことのみ特別に尊いことのように考える癖は私がつけた過ちでした。私は妹に兄妹二人を養うことがいかに実なる値ある、仕事であるかを教えています。時々は妹と暮らしていることを堪えがたい苦痛と感ずるようなこともあります。愛と犠牲とに教えならされない妹は私の心を傷つけます。私はつくづくとこれまで私が妹にしみ込ませた空華なものの憧れと、実なるものの軽蔑との、むなしい教訓を後悔いたします。ここでも私は私の過失の報いを受けねばなりません。時々私は私の妹のエステーティスムスの前に、茶碗を持ち襤褸《ぼろ》を着て乞食として立って見せたい気がします。そして私は妹と私との共同生活の近き破産を予想いたします。
私はもはや私の生活の基礎をギリシア主義の上に置くことはできません。私は妹の持っているアイテルなものに反抗しなければなり
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