したいと考えます。お絹さんのことも詳細打ち明けて相談いたしました。そして天香師の勧告と私の熟慮の末、お絹さんをも一燈園に来るように勧める決心をいたしました。お絹さんはこのたびの騒動で病院は辞職しなければならず、パンにも苦しんでいる状態です。そしてどうしても私と別れる気がしないならば一燈園に来ればお金はなくとも天香師が引き受けて下さるのです。そして天香師のいわるるには、さきのことは神のほか知るものはない。今は夫婦約束などせず、ともかくも共に信仰生活にはいって修業するがいい。その間にもし神意ならば、結婚してもいい時期が熟するだろう、あるいは僧と尼としてフランシスとクララのごとくに暮らしてもいい、ともかく先のことはわからない。今は両人とも人間としてなくてかなわぬ唯一のものを求むるがよい。もし女に菩提心《ぼだいしん》あらば一燈園に来させよ、との勧めでした。私も熟考してみるに、この方法が最も私の心にも適い、真理に即したる解決のごとく思われます。それで私はその方針を取ることに定め、尾道の私の叔父の尽力を乞い、その運びにするつもりです。もとよりお絹さんの決意はお絹さんに任せるほかはありません。はたしてお絹さんが一燈園に来るか、来ないかは、わかりません。私はお絹さんの運命に没交渉ではいられません。一燈園に来なければ新しい職の得らるるまで、私の家にでもいてもらいます。そしてこの後もお絹さんを愛します。ただ私の今あくがれている宗教的生活を捨てることはできません。私はどうかしてともに同じあくがれに進むことができれば幸いだと思います。しかしそのようなことは自由には参りません。私はお絹さんの心に任せます。私はお絹さんがいとしくてなりません。そのうちに何とか解決がつくことと存じます。今は向こうから少しも便りがないのでまったく困っています。解決がついたらお知せいたします。どうぞ私たちの運命のためにお祈り下さい。
私はこれから根本的にひとりの人間として地上に置かれたる Mensch としての生活をやり直さねばなりません。つまり衣食をも父にたよらずに神に頼って暮らす工夫をしなくてはなりません。天香師はその方面に私を導いて下さるそうです。
私のこれまでにしてきた生活は、私が uneasy であるのはあたりまえだ、と天香師は申されました。そしてパンを父に頼って、贅沢《ぜいたく》な生活をしていることを
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