叱られました。私ももっともに感ずるほかはありませんでした。
 宗教的生活の純粋なるものは必ず衣食の道を神に depend してはたらくことに根をおろさなくては虚偽だと思われます。一体に天香師に会って話してみると、師の考え方には浮気な eitel なところがありません。すべてがたしかな深い地盤の上に立っています。そして私の持っている色気や衒気《げんき》が、実に目に鮮かに見えて恐縮いたします。私はこれから天香師の生活から吸収しうるすべてのよい Einfluss を受け取りたいと思います。
 書物の出版の話は恥ずかしく天香師に話すには話しましたが uneasy でなりませんでした。そして私の威力なき生活を省る時に、そのことはひとまず中止にするほかはありませんでした。かく申しましても、私は私自らのものを捨てる気は少しもありません。
 ただ天香師の生活の実状を見る時に、私の生活よりもそこには光り輝いてるところの真理をみとめますから、師から Einfluss を得ることを光栄に感ずるのであります。
 私は一燈園にとどまることは私の生涯にけっして無駄ではあるまいと思われます。聖フランシスのことは師とも語り合いました。そして一燈園の組織はフランシスカンのと酷似しています。天香師の生活法は、フランシスその人のと酷似しています。私はひとりのフランシスカンになれるわけです。みなよく働いて相愛しています。私もはたらかしてもらいたい気がします。そして無能な私はもうけることはできなくても一燈園で養われます。つまり神から衣食を得て暮らすことができます。
 私はただ「神の国とその正しきとを求め」ればよいわけです。天香師は慈悲深い飾り気のない徹底的な方です。その自由な暮らし方はそばで見ていても気持ちがいいほどです。しかし少しエクセントリックなところがありすぎるように思われます。これも年とともに円熟することでしょう。まだ四十代ですから。
 私は不思議な運命に押されて、ここまで参りました。これから後どのようになりますかは神様のほか知る方はありません。どうぞ深い真実な生活のできるようになりたいと思います。神仏の加護を祈り求める心がせつでございます。私はどうも腰が決まらず、色気や衒気が多くて困ります。深い真実な人に触れると鏡の前に立つように、はっきりとそれが見えて恥しくなります。宗教生活の深い味にこれから少
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