へかえることができるでしょう。
成経 それはあの山から煙の出ない日を待つよりも、はかないことかもしれない。
康頼 でもあの山で硫黄《いおう》を取って、集めてそれを漁師《りょうし》の魚や野菜と交換しなかったら、わしたちはどうして生きてゆくのでしょう。
成経 あの年に一度九州から硫黄を取りに来る船に頼んで、せめて九州の地まで行くことはできますまいか。九州の地にさえ着けばそこからは都へ通う船は多いのだから。
康頼 わしらが飛ぶ鳥も落とす清盛《きよもり》に謀叛《むほん》して、島流しになってる身であることを、知らない者はありません。とても船にのせてはくれません。島の漁師たちさえわしらを恐れて近づかぬではありませんか。
成経 何とかして商人《あきんど》をだまして九州まで行けば、どこかに隠《かく》れて時期をうかがうこともできるだろう。
康頼 草の陰《かげ》、洞《ほら》のすみを捜しても、あの清盛が見つけ出さずにはおきますまい。そうなったら今度はとても生かしてはおきますまい。
成経 (絶望したように)あゝ。わしは人間というものがこのようなさびしい、乏《とぼ》しい状態に陥《おちい》り得るものとは思わなかっ
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