と自暴《やけ》になってわしにあたったり、それかと思うと絶望したように、ため息をついたりなさいます。そのくせやはり毎日お参りしていらっしゃるようです。
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この時|雷《らい》のとどろくごとく、大いなる音|響《ひび》きわたる。
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成経 あゝ、また山が荒れるな。
康頼 ではあしたは雨ですぞ。あの山が荒れるときっとふもとには雨が降るのだから。
成経 あしたは船の姿《すがた》も見られますまい。雨降りの日ぐらいわしは不幸な気のすることはない。わしはあなたのように信心はなし、雨の漏《も》るあばら家で衣の袖《そで》をぬらしながら、物思いにふけると、さびしいことばかり考えられます。希望の影も見失うて、いちばんさびしいことをさえ考えますよ。……死のことをさえ。
康頼 (身ぶるいする)それを言うのはよしてください。わしはそれを考えるのを恐れているのですから。きっといい日が来ますよ。成経殿。わしたちは希望を失いますまい。権現《ごんげん》様のご利生《りしょう》でもきっと迎えの船が来て、都《みやこ》
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