と飛んできて、わしの袖《そで》にかかりました。それを手に取ってみると御熊野《みくまの》の山にたくさんある栴《なぎ》の葉なのです。よく見るとその葉に歌が一首書いてあるのです。「ちはやふる神に祈りのしげければ、などかみやこへかえらざるべき」とありあり読みました。あゝありがたいと思ってその栴《なぎ》の葉をいただいて目がさめたのです。
成経 それはあなたがいつも都へ帰りたい帰りたいと思っているから、そんな夢を見たのでしょう。
康頼 しかしありありと歌まで覚《おぼ》えているのです。霊夢《れいむ》に相違《そうい》ありません。たとえそうでなくっても、わしはそうと信じたいのです。
成経 それであの卒都婆《そとば》流しを思いついたのですね。
康頼 (さびしそうに)はい。
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     間。
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成経 俊寛殿はどこへ行きましたか。
康頼 きょうも熊野権現《くまのごんげん》にお参りなされました。
成経 あの人は神など拝むような人ではなかったが。
康頼 人間は苦しい目にあうと神を拝むようになるものですよ。今でも時々こんなことをしたって何になるなど
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