てくれ。わしは考えて見たいから。
基康 船を止めろ。(家来船を止める)
俊寛 (不安の極に達し)康頼殿、わしはあなたを信じますぞ。
康頼 (苦しみに堪えざるごとく)神々よ。わしに力を与えてください。
基康 船を出せ。(船動く)
康頼 待ってくれ。わしは迎えをお受けする。
俊寛 (まっさおになる)康頼殿、あなたもか※[#疑問符感嘆符、1−8−77]
康頼 俊寛殿、ゆるしてください。わしはあなたのそばにいたい。最後まであなたの慰《なぐさ》めの友でありたい。けれど、わしは今自分を支えることができなくなった。あなたはわしがどれほど故郷《こきょう》を慕《した》っていたか知っていられよう、そのために頼むべからざるものをも頼みとしていたことを。熊野神社《くまのじんじゃ》に日参《にっさん》したことも、千本の卒都婆《そとば》を流したことも。今やその日が来た。ほとんど信じられない夢のような日が。けれどわしはあなたをあわれむあまり、今の今まで堪《た》えてきた。けれど今はわしの力もつきたような気がする。この船を逸《のが》したら二度と機会は来ないかもしれない。あの荒れた乏《とぼ》しい、退屈な、長い長い日が無限に
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