つづくことを思えばたまらない。わしはこの船が地獄《じごく》に苦しむ罪人を迎えに来た弘誓《ぐぜい》の船のような気さえしているのだ。
俊寛 (康頼の袖《そで》をつかむ)永久に地獄《じごく》に残るわしの運命を思ってくれ。それもただ一人で! あゝ考えてもぞっとする。残ってください。残ってください。
康頼 わしが帰ったらきっと清盛《きよもり》殿に取りはかろうて迎えの船を送ります。それを信じて待ってください。
俊寛 それがあてになるものか。このたびの処置で清盛がわしをどれほど憎《にく》んでいるかがわかる。わしはこの島にただ一人残って船の姿《すがた》が見えなくなる瞬間が恐ろしい。わしの命がその瞬間を支え得るとは思われない。
康頼 きっと迎えにまいります。その日を待ってください。わしを帰らせてくれ。
俊寛 (康頼を抱《だ》く)残ってくれ、残ってくれ。
康頼 (苦悶《くもん》の極に達す)あゝ。神々よ。
基康 船を出せ!
康頼 待ってくれ。(決心す)わしは帰らねばならない。(俊寛を放《はな》す)
俊寛 わしを無間地獄《むげんじごく》に落とすのか。
康頼 ゆるしてくれ、ゆるしてくれ。
俊寛 (康頼にしがみつ
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