。わしが都へ帰ったらきっと清盛《きよもり》殿にとりなして、あなたも帰洛《きらく》のかなうよう取りはからいます。それを頼みに苦しみに堪《た》えて待っていてください。
俊寛 (答えず)
成経 何か形見《かたみ》に残したいがわしに何もあろうはずがない。この衾《ふすま》をあなたにのこします。わしはこれで雨露《あめつゆ》をしのぎました。
俊寛 (衾《ふすま》を地になげうつ)わしはあなたを友とは思わぬ。早く都《みやこ》に帰るがいい。そして自分の敵に追従《ついしょう》するがいい。
家来 船の用意はできました。
基康 ではお別れする。(船に乗る。成経つづく)
成経 (船の上より康頼に)おことづてはありませぬか。
康頼 (何か言いかけて感動のあまりやめる)
基康 すぐに出発しろ。
家来 (ともづなを解《と》く)
俊寛 (顔をそむける)
成経 (康頼に)ではお別れいたしまする。
康頼 (堪《た》えかねたるごとくに)基康殿、お待ちください。
基康 何かごようか。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから5字下げ]
船少し動く。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
康頼 待っ
前へ
次へ
全108ページ中72ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング