。(地に伏して慟哭《どうこく》す)
康頼 (苦しげに)わしはあなたのそばにいたい。あなたを見捨てる気にはなれない。
俊寛 わしはあなたを最後の頼みといたしますぞ。
基康 (家来をしたがえて登場)もはや時は来た。決心を承《うけたまわ》ろう。(家来に)出発の用意をしろ。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから5字下げ]
家来数名船のほうにゆく。三人沈黙。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
基康 (成経に)あなたの決心は?
成経 わしは迎えをお受けする。
基康 (うなずく。康頼に)あなたは?
康頼 (力なく)わしは友を見捨てるに忍《しの》びません。
基康 よろしい。ではあなたはこの島に残るがよかろう。成経殿だけ伴《ともな》って帰ろう。成経殿、出発の用意をなされい。
成経 (康頼に)わしは苦しい立場ではあるが思いきって一足《ひとあし》先に都《みやこ》へ帰ります。あなたはとどまって俊寛殿を慰《なぐさ》めて時機を待ってください。わしは都へたち帰ったらきっと再び迎えの使いを送ります。(俊寛に)あなたはわしが憎《にく》かろう。だがわしの立場を思ってゆるしてください
前へ
次へ
全108ページ中71ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング