ではわしとともにこの島に残ってくださるのですね。
康頼 (力なく)わしはそうしたい。そうしなければならぬと思う。けれども――
俊寛 (不安の極度に達す)わしはあなたの信心に依頼する。
康頼 迎えの船の来たのは熊野権現《くまのごんげん》の霊験《れいげん》と思われる。
俊寛 あなたは神々にたてた誓《ちか》いを忘れはすまい。あれほど信心深いあなたが、天地の神々の名によってたてた誓いを破ろうとは信じられない。
康頼 (沈黙)
俊寛 (あわれみを乞《こ》うごとく)康頼殿、あなただけはわしを見捨ててくださるな。あなたは成経殿の例にならってくださるな。この長い困苦の年月あなたがわしのためにどんなに忠実な友であったか、わしは感謝の心でいっぱいだ。今一人の友が無慈悲《むじひ》にわしを捨てて去ろうとする時、あなただけはわしを助けてください。わしはあなたに救《すく》いを求める。
康頼 (沈黙)
俊寛 (康頼の袖《そで》を握《にぎ》り地にひざまずく)あわれな友の最後の願いをしりぞけてくださるな。
康頼 わしはあなたを見るに忍《しの》びない。わしの心はちぎれるようだ。
俊寛 わしを地獄《じごく》から救ってくれ
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