われを忘れたるごとく)わしへの手紙は? 故郷の便りは?
基康 わしのことづかったのはこれだけだ。(俊寛、顔をおおう。家来に)出発の用意をしろ。
成経 (あわてる)待ってくれ。わしがもっとよく考えるために。
康頼 今しばらくの猶予《ゆうよ》が願いたい。
基康 あなたがたの意志はもはや確かに承《うけたまわ》ったはずだが。
成経 いや、わしはもっとよく考えて見なければならない。あなたに聞きたいこともある。
康頼 われわれがもっとよく考えて決心するために、今しばらく待っていただきたい。あなたはあまりにあわただしい。
俊寛 (不安に堪《た》えざるごとく。成経に)成経殿、わしはあなたを信じている。あなたが誓《ちか》いを守ってくださることを。
成経 (俊寛にむけてではなく)わしは考えねばならない。考えねばならない。
俊寛 康頼殿、わしはあなたの誓いを最後の頼みとしていますぞ。
康頼 わしたちはよく考えて見ましょう。今はあまりに大事な時だ。
俊寛 (天に向かって両手をのばす)神々よ、汝の名によってたてられた誓いは守られねばならぬ!
基康 わしの前で内輪《うちわ》の争いは、見るに堪《た》えぬわい。申《さ
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