る》の刻《こく》までに考えを決められい。猶予《ゆうよ》はなりませぬぞ。(退場。家来つづく)
成経 (基康の去るやいなや、飢《う》えたるもののごとく手紙の封を切りて読み入る)
康頼 (手紙を読みかけて、俊寛を見てやめる)
成経 (かたわらに人なきがごとく)なつかしい母上よ、あなたの恩愛《おんない》が身にしみまする。(今ひとつの手紙を読む)妻よ、お前の苦しみは察するにあまりある。どんなに会いたかったろう。(他の手紙を見る)乳母《うば》の六条の手紙に添《そ》えて、わしの小さな娘の手紙も入れてある。何という可憐《かれん》な筆つきだろう。六条よ、あゝおまえの忠義は倍にして報《むく》いられますぞ。(手紙を読みつづける)
俊寛 (堪《た》えかねたるごとく)わしの前でその手紙を読むのはよしてください。わしは不安で不安でたまらない。成経殿、あなたは考えを変えてはなりませぬぞ。きょうあなたが弓矢にかけてたてた誓《ちか》いを忘れてくださるな。
成経 (われに帰りたるごとく)わしはあまりに苦しい、今はわしの一生の運命の定《き》まる時だ。わしに考えさせてください。
俊寛 あなたは名誉ある武士のすえだ。あなたはい
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