下げ終わり]
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基康 (家来に目配《めくば》せす)出発のしたくをしなさい。
成経 (狼狽《ろうばい》す)しばらくお待ちください。
康頼 そのように急がれるにはおよびますまい。
基康 (冷ややかに)あなたがたの意志を聞いた以上は、もはやわしの役目はすんだというものだ。わしは片時《かたとき》も早くこの荒れた島から離れたい。何か都《みやこ》にことづてはありませんか。わしがあなたがたへのただ一つの親切にそれを取りついであげましょう。あゝわしは忘れるところだった。都をたつ時あなたがたにことづかった物があった。故郷《こきょう》からの迎えの使いを拒絶《きょぜつ》するほどのあなたがたに、たいした用はないかもしれんが。(家来に)かの品を。
家来 (文《ふ》ばこを基康に渡す)
基康 (文ばこを成経と康頼に渡す)
成経 (ふるえる手にて文ばこを開き、手紙を手に取り裏を返し、表を返しして見る。おのれを制することあたわざるごとく)母上の手蹟《しゅせき》だ。(感動に堪《た》えざるごとく)あゝ。
康頼 (手紙を握《にぎ》りしめ)わしはどんなに飢《う》えていたか!
俊寛 (
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