たす方法は、いかなる場合にも文書の文字どおりに行使《こうし》することだということを。わしはもう長い間そういうことに決めているが、やはりいちばん無難《ぶなん》なようだ。それにも一度この島に来なければならないことになれば、わしは上役に懇願《こんがん》して、このありがたくない役目をだれかに代わってもらうこともできるだろう。
俊寛 しかしそれは区々《くく》たる小役人《こやくにん》のすることだ。大いなる役人は文書の意のあるところをくみとるべきだ。
基康 (皮肉に)あなたは初めからわしをあまりに高い身分のものと買いかぶりすぎたようだ。わしは平凡な、一人の役人にすぎない。またそうでなくてだれがこんな役目をおおせつかるものか。わしは実際今度の役目にはこりごりした。わしは疲《つか》れている。わしは一日も早くこの役目を果たして、都へ帰りたいと願うほかには何も考える気はなくなっている。
俊寛 しかしわしにとっては大きな大きな問題だ。わしの一生の運命が決まるのだ。
基康 わしはその大きな問題を引き受けるにはあまりに地位も低く、力が乏《とぼ》しい。
俊寛 わしをあわれんでくれ。
基康 わしはあなたに同情する。し
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