きっとあなたに報《むく》います。
基康 (考える)どうもわしの身に難儀《なんぎ》がかかりそうだ。
俊寛 もしあなたにとがめがかかったら、わしが立派に申し開きをしよう。その責任はわしがきっとになう。だがそんなことはきっとない。主人の意志は三人を都へ帰すにあるのはわかりきったことなのだから。
基康 その点もあなたが言うほどわしにははっきりしていないのだ。少なくとも赦文《しゃもん》の意味を文字どおりに行使《こうし》するのが最も賢《かしこ》いことがわしにはっきりしているほどには。
俊寛 しかし一度都へ帰ってから、またはるばるこの島まで迎えに来なくてはならないとしたら。
基康 (ある感動をもって)あなたがそういうのはもっともだ。わしは長い船旅《ふなたび》には実際弱ってしまった。都を出てから想像もつかないほどの長い日数がかかっている。それに都を去るにつれてだんだん航路が荒くなった。その上九州の本土を離れてからは何という退屈だったろう。都《みやこ》にかえってから、も一度この島に来るというようなことはとても耐《た》えられないことだ。(考える)だがわしは長い間の役目の経験で知っている。一番安全に役目を果
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