てください。
康頼 (黙読《もくどく》し、成経に渡す)
俊寛 成経殿。わしの名は?
成経 (黙読し、俊寛に渡す)
俊寛 (ふるえる手にて受け取り読む。まっさおになる)礼紙《らいし》を見てくれ。礼紙を!
基康 (無言《むごん》にて家来に礼紙を渡す)
俊寛 (家来より礼紙を受け取り、裏を返し、表を返して見る)執筆《しっぴつ》の誤りだ。基康殿。あなたは都《みやこ》を出発する時三人を連れ帰るようにとの命令を受けられたに相違ない。
基康 わしの役目はこの赦文に記されたとおりを行使《こうし》するのにある。
俊寛 もし執筆の誤りだったら。
基康 (冷ややかに)あなたを残して帰っても、責《せ》めはわしにはかかるまい。
俊寛 (せき込む)しかし清盛《きよもり》殿の意志が三人を都《みやこ》へ呼び戻《もど》すにあるとしたら。主人の意志を果たすがほんとうの忠実なる使者でしょう。あなたは主人の意志を熟知《じゅくち》していられましょう。
基康 (皮肉に)わしがそんな高い身分のある者だったら、こんな役目はおおせつからなかっただろう。主人の意志を知ることなどわしなどには思いもよらぬことだ。わしはただこの紙に記されてあ
前へ
次へ
全108ページ中56ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング