《やり》をたてて侍立《じりつ》す。その前に俊寛、康頼、成経ひざまずく。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
基康 (家来に目くばせす)
家来 (雑色《ぞうしき》の首にかけたる布袋より赦文《しゃもん》を取り出し、うやうやしく基康に捧げる)
基康 つつしんできけ。(赦文を読む)重科|遠流《おんる》を免《めん》ず。早く帰洛《きらく》の思いをなすべし。このたび中宮《ちゅうぐう》ご産の祈祷《きとう》によって非常のゆるし行なわる。しかる間、鬼界《きかい》が島の流人《るにん》、丹波《たんばの》成経、平《たいらの》康頼を赦免《しゃめん》す。
成経 (康頼と顔を見合わす)
基康 つつしんでおうけなされい。
俊寛 (声をふるわす)その赦文をも一度お読みください。
基康 (も一度読む)命《めい》によって迎えにまいった。両人ともしたくをなされい。
俊寛 あなたは俊寛という名を読み落としなされたようだ。
基康 この赦文《しゃもん》には俊寛という名は記してない。
俊寛 (青ざめる)そんなはずはありません。
基康 自分で見るがよかろう。(赦文を康頼に渡す)
俊寛 康頼殿。早く見
前へ 次へ
全108ページ中55ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング