はなかなか大きいらしい。
康頼 (沖を凝視《ぎょうし》す)あれは都《みやこ》から来た船だ。(渚《なぎさ》に走る)あの帆柱《ほばしら》や帆《ほ》の張り方や櫓《ろ》の格好《かっこう》はたしかにそうだ。いなかの船にはあんなのはない。(波の中に夢中でつかり、息をこらして船を見る)
成経 (康頼のそばに走る)旗《はた》だ! たしかに赤い旗が見える。平氏の官船《かんせん》だ。
康頼 迎えの船だ!
成経 (夢中に叫ぶ)追い風よ。吹け。吹け。吹け。
康頼 まっすぐに、こぎつけよ。一刻も早く、この岸に! わしらはここにいる。ここの岸に立っている。餓鬼《がき》のようにやせて! (急にむせび泣く)わしはどんなに待ったろう。
成経 あゝ。長い長い間だった。
康頼 神々よ。きょうの恵みはわが子孫に書きのこして伝えられましょう。
成経 わしの心がこのよろこびに持ちこたえられるように!
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから5字下げ]
沖《おき》の船より銅鑼《どら》の音《ね》ひびく。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
康頼 合い図だ! 船着き場へ! (はせ去る)
成経 (無言に
前へ
次へ
全108ページ中53ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング