もののような顔をなさるのだろう。あなたの内に不幸を吐《は》き出す魔でもすんでいるのか。あなたはわしとともによろこんでくださるはずだ。われわれが長い長い間待った日が来かけているのではないか。あなたはその日をあれほど待っていられたではないか。
成経 (沖《おき》を見る)あの船はいよいよこの島に来るらしいぞ。
俊寛 (苦しそうに)なぜこんなさびしい考えがわしにだけ起こるのだ。去ってくれ。去ってくれ。(船を見る。身ぶるいする)だめだ。わしは凶兆《きょうちょう》を感じる。わしの運命は、わしの星は凶だ。(地に倒れる)
康頼 俊寛殿。気が狂ったか!
成経 何かついたのか! (刀を抜く)外道《げどう》よ、去れ!
俊寛 (起き上がる)わしに必要だ。一つのことがわしに保証されねばならない。わしを見捨てて帰らぬということが!
成経 安心なさい。俊寛殿。わしはあなたに何のわだかまりも持ってはいない。持っていたものは皆消えた。わしはあなたを慰《なぐさ》めたい心で一ぱいになっている。鬼神《きじん》も今のあなたの姿《すがた》を見てはあわれみを起こすだろう。
康頼 あなたはあり得ぬことを想像してひとりで苦しんでいられ
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