に機知のある、不思議なほどに甘いつづめ[#「つづめ」に傍点]をつけたのが、この一場の猿楽《さるがく》に驚くほどいきいきした効果を与えたのを。(俊寛苦しそうに首をたれる)あなたは瓶子の首を取って立ちあがりざま、心地《ここち》よげに一座を見回して叫びましたね。平氏の首を取るがいいと。
俊寛 (顔をおおう)わしは恥じる。わしは失敗者だ。すべて愚《おろ》かな愚かなことだった。あなたがたは今いちばん悪いことを思いだしてくれた。わしはこうして立っていられないほど恥ずかしい。あなたがたはわしをこの思い出で元気づけようとしたのか。この皮肉な思い出で……あゝ呪《のろ》われたるわしよ。(痙攣《けいれん》する両手で頭をかかえて砂上《さじょう》に伏す)
康頼 (気の毒に堪《た》えざるごとく)わしが愚かなことをしたのならわしは悔いる。許してください。わしは今あなたを慰《なぐさ》めることならどんなことでもしたい。俊寛殿、今、われわれの時が来つつあるのだ。この幸福の予感の中《うち》にあって、わしが少し軽い心になっても許してください。わしは足が地につかないような気さえしている。あなたといえば、どうしてこんなに不幸その
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