頼 わしはあなたの最後までの助け手だ。死に到るまでかわらぬ忠実なる友だ。
俊寛 あゝ、あなたは心強いことを言ってくださる。(康頼の顔を見る)どうしてあなたがたのかほどの強い励《はげ》ましが、わしの不安を払いのけてくれぬのだろう。
康頼 わしはあなたをあわれむ。あなたはきょうはどうかしていられる。あまり異常な幸福が近づいたために、心がその喜びをにないきれなくなって、平衡《へいこう》を失ってしまったのではないか。
俊寛 ほんとうに、ほんとうにわしを見捨てませんか。
康頼 わしの目をごらんなさい。あゝ、あなたは泣いていますね。どうしたと言うのだろう。
俊寛 (康頼の足もとに崩《くず》れて泣く)
成経 あなたはあまりに衰《おとろ》えました。風雨が樹木《じゅもく》を打つように、長い間の不幸があなたを打ったのだ。あなたはあわれな老人のごとく、幸福なときにも泣くことしかできないのだ。あなたの姿《すがた》はあまりにも痛ましい。わしは思いださずにはいられない。われわれが昔あの鹿《しし》が谷のあなたの山荘に密会したころのことを。あのころのあなたのあの鉄のような意志と、鷲《わし》のような覇気《はき》とを。わ
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