許さるるよう祈ったほうがいいと思うようになりました。
成経 けれど考えてごらんなさい。その小さな卒都婆《そとば》が何百里という遠い海を漂《ただよ》うて都のほうの海べに着くということがありましょうか。
康頼 でも千本のうち一本くらいは。
成経 とても九州までも行きはしますまい。潮風《しおかぜ》に吹き流されて。この島の磯《いそ》にでも打ちあげれば、蜑《あま》の子が拾うて薪《たきぎ》にでもしてしまうだろう。
康頼 しかしあれには二首の歌が彫《ほ》りつけてあります。故郷《こきょう》をしたう歌が。心あるものはまさか焚《た》いてしまいはしますまい。
成経 文字《もんじ》など読めるような人がこの島にいるものですか。言葉でもろくに通じないくらいだのに、男は烏帽子《えぼし》もかぶらず女は髪《かみ》もさげず、はだしで山川を歩くさまはまるで獣《けもの》のようではありませんか。
康頼 あゝ。わしはあの優雅《ゆうが》な都《みやこ》の言葉がも一度聞きたい。あの殿上人《てんじょうびと》の礼容《れいよう》ただしい衣冠《いかん》と、そして美しい上※[#「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1−91−26]《じょうろう》
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