の品《ひん》のよい装《よそお》いがも一度見たい。
成経 この島の女は猿《さる》のように醜《みにく》い。
康頼 わしはけさ卒都婆《そとば》を流しにいって、岸辺《きしべ》に立ってさびしいことを考えました。わしはわし自身が丹精《たんせい》してほりつけた歌を今さらのように読み返しました。何たるさびしい歌だろう。卒都婆は波にもまれて芦《あし》のしげみにかくれてしまいました。わしはそれをじっと見送っていたら涙《なみだ》がこぼれた。しかし神様には何でもできないことはないはずだ。千本の内一本でも中国あたりの浜にでも着いて心ある人に拾われたら、きっと清盛《きよもり》の所へ送ってくれるだろう。清盛だって鬼神《きじん》でもあるまい。あのさびしい歌を読んで心をうごかさぬことはあるまい。あゝ。われわれがこの孤島《ことう》でどんな暮らし方をしているかを知ったら。どんなにふるさとをしとうているかを知ったら。むかえの使いを送ってくれまいものでもない。
成経 しかしそれはあまりにおぼつかない希望だ。
康頼 神を疑《うたが》ってはいけません。熊野権現《くまのごんげん》は霊験《れいげん》あらたかな神でございます。これまでか
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