とけ》の力でなくてはとてもできることではありません。
成経 それであなたは毎日|卒都婆《そとば》をつくって流すのですか。
康頼 きょうでもう九百九十五本流しました。もう五本流せば、熊野権現《くまのごんげん》様にたてた誓《ちか》いのとおり、千本という数になります。
成経 あ。また白帆が見える。ほんとにかすかで、よく見なくては鴎《かもめ》とまちがうくらい小さいけれど。来てごらんなさい。
康頼 わしは見ますまいよ。
成経 早く見ないとかくれてしまう。あなたは初めはわしといっしょに毎日船を見にいらしたではありませんか。
康頼 けれどとてもこの島へは来ないとあきらめたのです。あの船の姿《すがた》が雲にかくれて見えなくなるときの気持ちが恐ろしくなったのです。わしは何だかあの帆を見ると、葬《とむ》らいの行列の幡《はた》のような気がしてなりません。
成経 何をほうむるのですか。
康頼 わたしたちの希望を!
成経 (悲しげに)あゝ、よしてください。わしのただ一つの希望に、そんな不吉な想像を描《えが》くことは。
康頼 わしはそれよりも、日頃《ひごろ》念ずる神様の不思議の力によって、都《みやこ》へ帰ることの
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