いやな山はない。まるでわしたちを呪ってでもいるようだ。(ふるえる)わしの魂の来世《らいせ》の行く先を暗示してでもいるようだ!
康頼 おゝ。神々よ。(ひざまずく)やわらぎたまえ。
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三人沈黙。も一度激しき山の鳴動。その後を単調な弾力《だんりょく》のない波の音ひびく。
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[#地から3字上げ]――幕――
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   第二幕

     第一場

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第一幕と同じさびしき浜辺《はまべ》。熊野権現《くまのごんげん》の前。横手に貧《まず》しき森。その一端に荒き丸太《まるた》にてつくれる形ばかりの鳥居《とりい》見ゆ。
第一幕より二年後の春の暮れ。
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康頼 (浜辺《はまべ》に立って海を見入る)あゝ、この離れ島にも春が来たのか。海の色も濃《こ》くなってきた。このふくれるように盛りあがって満ちてくる潮《しお》の香《か》の悩《なや》ましさ! わしはこの島の春がいちばん苦しい。わしの郷愁《きょうしゅう》を堪《た》えがたいほど誘《さそ》う
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