というあさましいことだろう。わしたちが争い合わなくてはならないとは。わしは思い出さずにはいられない。わしたちのこの島に着いた当初《とうしょ》のあの美しい一致を! わしたちはあたたかくかたまって一団となっていた。不幸とさびしさは三人の心をかたく結合していた。わしはその愛のために死にたいとさえ思っていた。わしたちはこの欠乏と艱苦《かんく》との中にあって、友情をさえ失わなければならないのか。わしはあなたがたがだんだん不和になってゆくのを見ているのは実に苦しい。いつも仲裁《ちゅうさい》者の位置に立たねばならぬのはたまらない。わしがいなかったらあなたがたは互いに飛びかかるようになりはしないかと思うと恐ろしい。檻《おり》の中の獣《けもの》のように。
成経 (涙ぐむ)わしはあまりの侮辱《ぶじょく》には耐《た》えられない。わしはいつも忍耐《にんたい》を用意しているにはあまりに余裕のない心でくらしている。わしはそれどころではないのだ。わしは不平でくずれそうなのだ。
俊寛 わしはなぜこうなのだろう。わしは呪《のろ》われた人間だ。わしの魂《たましい》の中には荒らす要素がある。わしの行くところはきっと平和がな
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