識で見ているのは堪《た》えられない。
成経 わしはあなたを見ているのは堪えられない苦痛になりだした。あなたはだんだん荒くなられる、あなたと毎日いっしょに暮らさなければならないことはわしの重荷になりだした。あなたはわしたちに不幸と絶望との息を吐《は》きかける。そしてわしたちに慰《なぐさ》めを与えてくれないばかりでなく、わしたちから何の慰めをも受け取ろうとしない。
俊寛 おゝ、あなたは何を言いますか。これほど慰めに飢《う》えているわしに! ([#「! (」は底本では「!(」]いらだつ)ただわしは知ってきた。あなたがたはもはやわしに送る何の力も持っていられない。餓鬼《がき》は餓鬼に求めても何ものをも与えられない。
成経 (くちびるをふるわす)あなたは餓鬼かもしれない。だがわしは名誉ある武士のすえだ。正義の殉教者《じゅんきょうしゃ》の子だ。
俊寛 七人の僧を暗殺し、神をけがしたものの子だ。
成経 あなたは父の墓をあばいて、死骸《しがい》に唾《つば》を吐《は》きかける気か。(俊寛にせまる)
俊寛 (自暴的に)わしは、わしの顔に唾を吐きかけたい。
康頼 (涙ぐむ)よしてください。よしてください。何
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