、今度は、今度はと思って、媚《こ》びるように尾を振っては、あわれみを乞《こ》うような眼つきをして、泣き声をたてるのを聞くようないまいましい気がする。
康頼 (力なく)あなたはわしを犬にたとえるのですか。
俊寛 主人はほかに気にいる犬を手に入れたので、もうその犬を殺そうと無慈悲《むじひ》に決心している。主人の興味はもはやいかにおもしろく殺そうかということにのみかかっている――
康頼 神の名のために、俊寛殿。
俊寛 (ののしるように)われわれはもはや神を捨てて外道《げどう》を祭ったほうがいいかもしれない。
成経 (耳をおおう)わしはたたりを恐れます。
俊寛 (この前後より山鳴動することはげしくなる)みなたたりかもしれない。(何ごとかを思いだす。おののく)われら一味はもうとくからたたられているのだ。わしは今ほんとうにそう思う。わしはきょうまで隠《かく》していたことを話してしまおう。わしはひとりでこの重荷《おもに》を心に負うているのにもはや堪《た》えきれなくなった。
成経 もはやこの上けがす言葉を吐《は》くのはよしてください。
俊寛 (成経の顔を見る)あなたは何も知りませんな。成親殿《なりちか
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