どの》はわが子に語ることをも恐れていたとみえる。
成経 父が何といたしました。
俊寛 成親殿は神をけがしました。
成経 少しお慎《つつし》みなされい。いかに自棄《やけ》になっているとは言いながら。
俊寛 このことを知っているのはわしとあなたの父上よりほかにはない。成親殿は恐ろしいことをたくらみました。わしは一生懸命とめてみたのだ。しかし成親殿はまるで何ものかにつかれているように頑固《がんこ》だった。わしは力の限り抵抗したけれども、彼の欲望に征服されてしまった。彼の欲望は奈落《ならく》の底に根を持っているように強かった。
成経 この上聞くのは恐ろしい。しかしわしの耳は聞かずにはいられない。
俊寛 わしは短く話します。思いだすのも恐ろしいから。あなたは成親殿《なりちかどの》が宗盛《むねもり》と左大将《さだいしょう》の位を争ったのを知っていますね。
成経 父は宗盛をひどく憎《にく》んでいました。法皇《ほうおう》は父にその位を与えたいと思っていられるのに、あの清盛《きよもり》がそれを妨《さまた》げましたから。
俊寛 あの時成親殿は八幡《はちまん》の甲良大明神《こうらだいみょうじん》に百人の僧を
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