されてよく御承知のとおりの念仏で確かにできるのです。
同行六 でもなんだか不安な気がしまして。
親鸞 安心なさい。それだけで充分です。
同行一 あなたの御安心《ごあんじん》が承りたいので。
親鸞 私の安心もただその念仏だけです。
同行二 でもあまり曲《きょく》がなさ過ぎます。
親鸞 その単純なのが当流の面目です。単純なものでなくては真理ではありません。また万人の心に触れる事はできません。
同行三 ではございましょうが、あなたは長い間|比叡山《ひえいざん》や奈良《なら》で御研学あそばしたのでございましょう。私たち無学な者にはわからぬかは存じませぬが、御教養の一部をお漏らしなされてくださいませ。
同行四 それを承りにはるばる参ったのでございます。
同行五 国のみやげにいたします。
親鸞 (まじめな表情になる)いやそのさまざまの学問は極楽参りの邪魔にこそなれ助けにはなりません。信心と学問とは別事です。たとい八万の法蔵を究《きわ》めたとて、極楽の門が開けるわけではありません。念仏だけが正定《しょうじょう》の業《ごう》です。もしおのおのがたが親鸞はむつかしき経釈《きょうしゃく》をもわきまえ、ある
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