。あの動物園の猿《さる》のように。
人間 (よろめく)そんなことはあり得ぬことだ。
顔蔽いせる者 ありうることだ。現にお前たちの仲間はこのごろ盛んに殺し合っているようだが、そのような白痴が幾人できたか知れない、――
人間 あなたはあまり残酷だ。
顔蔽いせる者 お前の価に相当しただけ、――
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鳥獣ら無数の生物の群れのおらぶ声起こる。
[#ここで字下げ終わり]
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人間 (おののきつつ)あの声は?
顔蔽いせる者 お前の殺した生物の呪詛《じゅそ》だ。
人間 あゝ。(頭をおさえる)
顔蔽いせる者 お前は姦淫《かんいん》によって生まれたものだ。それを愛の名でかくしてはいるが。
人間 私の罪を数えたてるのはよしてください。
顔蔽いせる者 限りがないから。――
人間 私は共食いしなくては生きることができず、姦淫しなくては産むことができぬようにつくられているのです。
顔蔽いせる者 それがモータルの分限なのだ。
人間 (訴えるように)人間の苦痛を哀れんでください。
顔蔽いせる者 同情するのはわしの役目ではない。
人間 なぜ? あゝなぜでござ
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