修行したのです。
唯円 そのころの事が思われましょうね。
親鸞 あのころの事は忘れられないね、若々しい精進《しょうじん》と憧憬《あこがれ》との間にまじめに一すじに煩悶《はんもん》したのだからな。森なかで静かに考えたり漁《あさ》るように経書を読んだりしたよ。また夕がたなど暮れて行く京の町をながめてあくがれるような寂しい思いもしたのだよ。
唯円 では私の年にはあの山にいらしたのですね。どのような気持ちで暮らしていられましたか。
親鸞 お前の年には私は不安な気持ちが次第に切迫して来た。苦しい時代だった。お経を読んでも読んでも私の心にしっくりとしないのだからな。それに私はその不安を心に収めて、まるで孤独で暮らさねばならなかった。
唯円 同じ年輩の若い修行者がたくさん近くにいられたのではないのですか。
親鸞 何百というほどいたよ。恐ろしい荒行をする猛勇な人や、夜の目も惜しんで研究する人や、また仙人《せんにん》のように清く身を保つ人やさまざまな人がいた。私もその人々のするような事をおくれずにした。ずいぶん思い切った行もした。しかし私の心のなかにはその人々には話されぬようなさびしさがあった。人生の愛
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