うでございますが。
僧一 とても御面会はかないますまい。
唯円 どうぞ御面会がかないますようにあなたがたのおとりなしのほどをお願い申します。
僧二 そのような事はめったにできません。お師匠様のおしかりを受けます。
僧三 善鸞様のお心が改まらなくてはかえっておためにもなりますまい。
唯円 私は悲しい気がいたします。
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一同ちょっと沈黙。
[#ここで字下げ終わり]
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僧一 きょうの法話はどなたがなさるのでございますか。
僧二 私がいたすはずになっています。
僧三 どのような事についてお話しなさるおつもりですか。
僧二 法悦《ほうえつ》という事について話そうと考えています。仏の救いを信ずるものの感ずる喜びですな、経にいわゆる踴躍歓喜《ゆやくかんぎ》の情ですな。富もいらぬ、名誉もほしくない、私にはそれよりも楽しい法の悦《よろこ》びがあります。その悦びがあればこそこの年まで墨染めの衣を着て貧しく暮らして来たのですからね。
僧一 そうですとも。私は他人の綺羅《きら》をうらやむ気はありません。私は心に目に見えぬ錦《にしき》を着ていると
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