だから私も妻も持てば肉も食うのです。私は僧ではありません。在家のままで心は出家なのです。形に捕われてはいけません。心が大切なのです。
左衛門 でもあなたとこのままお別れするのはつろうございます。いつまた会われるのかわかりません。
お兼 せめて四、五日なりとお泊まりあそばして。
親鸞 会うものはどうせ別れなくてはならないのです。それがこの世のさだめです。恋しくおぼしめさば南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》を唱えてください。私はその中に住んでいます。
左衛門 ではどうあってもお立ちなされますか。
親鸞 縁あらばまたお日にかかれる時もございましょう。
お兼 これからどちらに向けておいでなされます。
親鸞 どこと定まったあてはありません。
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親鸞、慈円、良寛身じたくをして外に出る。夜はしらしらと明けかけている。左衛門、お兼は門口に立つ。松若も母に手を引かれて立って見送る。
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親鸞 私はこのようにしてたくさんな人々と別れました。私の心の中には忘れ得ぬ人々のおもかげがあります。きょうからあなたがたをもその中に加
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