を。私の魂の荒々しさが今さらのように感じられます。私は悪い事をいたしました。私の業《ごう》の深さが恐ろしくなります。私は親鸞様を打ちました。お弟子《でし》たちをののしりました。そして仏像を片輪にしました。私は、私は……(泣く)
親鸞 左衛門殿、お泣きなさるな。さほどに罪深きあなたをもそのまま許してくださるのが仏様のお慈悲です。この仏像はかたみにあなたにさしあげます。これを見てはあなたの業の深いことを思ってください。そしてその深重《じんじゅう》な罪の子をゆるしてくださる仏様を信じてください。そしてあなたの隣人をその心で愛してください。(間)もうほど無く夜も明けましょう。私はお暇《いとま》いたします。あすの旅路を急ぎます。良寛、慈円、したくをなさい。(親鸞立ちあがる)
左衛門 (親鸞の衣の袖《そで》を握る)どうぞお待ちください。私は出家いたします。これからあなたのお供をいたします。どこまでも連れて行ってください。
親鸞 (感動する)あなたのお心はわかります。私は涙がこぼれます。けれどあなたは思いとどまってください。浄土門の信心は在家のままの信心です。商人は商人、猟師は猟師のままの信心です。
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