す。
親鸞 (松若に)お幾つにおなりなさる。
松若 (顔を赤くする)十一。
親鸞 よいお子じゃの。(頭をなでる)
左衛門 少しからだが弱いので困ります。
親鸞 ほんに少し顔色が悪いね。
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一同しばらく沈黙。
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親鸞 良寛、ちょっと私の笈《おい》を見てくれ。最前|杖《つえ》があたった時に変な音がしたのだが、もしかすると……
良寛 (笈をひらいて見る)おゝ阿弥陀《あみだ》様のお像がこわれています。(小さな阿弥陀如来《あみだにょらい》の像を取り出す)
慈円 左のお手が欠けましたな。
左衛門 (青ざめる)私に見せてください。(小さな仏像をつくづく見入る。やがて涙をはらはらこぼす)
親鸞 左衛門殿どうなされた。
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一同左衛門を見る。
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左衛門 私はたまりません。この小さく刻まれたお顔の尊いことを御覧なさいませ。私はこのお像を杖《つえ》で打ちこわしたのです。この美しい左のお手を。指まで一本一本美しく彫ってあるこのお手
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