体を知りたいと願っています。
顔蔽いせる者 小猿《こざる》の知識でな。ものの周囲をまわるけれど決してものの中核にはいらない知識でな。
人間 私はあなたの力を認めます。あなたの破壊力を。あなたは何のために、ものをこわすのですか。
顔蔽いせる者 それはこわれないたしかなものを鍛え出すためじゃ。
人間 私はそのたしかなものを求めます。私があなたを知って以来あなたにこわされないものを捜しています。
顔蔽いせる者 見つかったかな。
人間 まだ。たしかなと思ったものはみなあなたがこわしてしまいましたから。征服欲も友情も、恋も学問も。
顔蔽いせる者 こわれるものはみなこわすのがわしの役目じゃ。(間)
人間 たしからしいものを見つけました。今度は大丈夫のつもりです。
顔蔽いせる者 何ものじゃ。
人間 子供です。たとえ私は衰えて死滅しても、わたしの子供は新しい力で生きるでしょう。私の欲望を子供の魂のなかに吹きこみます。
顔蔽いせる者 お前はまだ知らないな。
人間 え。
顔蔽いせる者 お前のむすこは死んだぞ。
人間 えっ。(まっさおになる)そんなことがあるものか。
顔蔽いせる者 凶報が来るのにまもあるまい
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