る。
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お兼 私は外に飛んで出て思わず坊様の肩をさすって許しを乞《こ》いましたのよ。でもあまりおいとしかったのですもの。
左衛門 坊様はその時なんと言った。
お兼 大事ありません、行脚《あんぎゃ》すれば、このような事はたびたびありますとおっしゃいました。
左衛門 あれからどうしただろうかねえ。さだめしわしを呪《のろ》った事であろう。(考える)お前これから行って呼びもどして来てくれないか。あの坊様が一生呪いを解かずに雪の中を巡礼していると思うとわしはたまらなくなる。
お兼 いいえ。夫を呪ってやってくださるなと私が言ったら、安心なさい、私はむしろあの人を心の純な人と思っていますとおっしゃいましたよ。
左衛門 そんな事を言ったかえ。(涙ぐむ)どうぞも一度連れて来てくれ。わしはあやまらなくては気がすまない。
お兼 この雪の降る真夜中にどことあてもなく捜すことができるものですか。
左衛門 これきり会えないのはたまらない気がする。
お兼 でもしかたがありませんわ。
左衛門 もしかまだ門口にいられはすまいか。
お兼 そんな事がある
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