中だよ。寒いから寝ておいで。(蒲団《ふとん》をかけてやる)
松若 そうかい。(また寝入る)
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二人沈黙。外を風の音が過ぎる。
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左衛門 宵《よい》の出家の衆はどうしただろうね。
お兼 雪の中を迷っているでしょうよ。
左衛門 わしは気になってね。酒に酔っていたものだからね。すこしひどすぎた。(考えている)
お兼 あなた坊さまを杖《つえ》でぶちましたね。
左衛門 悪い事をした。
お兼 私がはたで見ていても宵のあなたのやり口は立派とは思えませんでしたよ。乱暴なだけではありませんでしたからね。あなたのいつもはきらう、皮肉やら、あてつけやら、ひねくれた冷たい態度でしたからね。
左衛門 わしもそう思うのだ。宵にはどうも気が変になって来ていたからね。
お兼 それにあの坊さんはよさそうな人でしたよ。少しも気取ったところなどなくて、謙遜《けんそん》な態度でしたからね。私は好きでしたから、泊めてあげたかったのですのに、あなたはまるで聞きわけが無いのですもの。
左衛門 少し変わった坊様のようだったね。
お兼 少しも悪
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