はうなされて目がさめたのだ。
お兼 なんて変な恐ろしい夢でしょうねえ。(身ぶるいする)
左衛門 その前世の悪事の光景を思い出した時の恐ろしさ。気味の悪いほどはっきりしているのだからね。あゝ地獄だという気がしたよ。今でも思い出すと魂の底が寒いような気がする。(青い顔をしている)
お兼 今夜はなんだか変な気がしますね。私も寝床にはいってから少しも眠られないので、いろいろな事が考えられてならなかったのですの。実は私のなくなったおかあさんの事を思い出しましてね。変な事をいうようですけれどもね。私はなんだか宵《よい》のあの出家様が私のおかあさんの生まれかわりのような気がするのですよ。
左衛門 なにをばかな。そんな事があるものか。
お兼 おかあさんはあんなに信心深かったでしょう。そして死ぬる前ころ私に「私は今度はどうせ助かるまい。私が死んだら坊様に生まれかわって来る。よく覚えておおきよ。門口に巡礼して来るからね」って言いました。それを真顔でね。それからというものは私は巡礼の僧だけは粗末にする気になれないのですよ。その事を思い出しますのでね。
松若 (目をさます)もう起きるのかい。
お兼 いいえ。夜
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