様とお別れなされた時の事でございます。
良寛 さぞお嘆きなされた事でございましょうねえ。
慈円 それは深く愛し合っていられましたからね。お師匠様が小松谷の禅室にお暇乞《いとまご》いにいらした時法然様は文机《ふづくえ》の前にすわって念仏していられました。お師匠様は声をあげて御落涙なされましたよ。なにしろ土佐《とさ》の国と越後《えちご》の国ではとても再会のできないのは知れていますからね。それに法然聖人《ほうねんしょうにん》は八十に近い御老体ですもの。
良寛 法然様はなんと仰せになりましたか。(涙ぐむ)
慈円 親鸞よ。泣くな。ただ念仏を唱えて別れましょう。浄土できっと会いましょう。その時はお互いに美しい仏にしてもらっていましょう。南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》とおっしゃいました。
良寛 それきりお別れなされたのでございますか。
慈円 忘れもせぬ承元元年三月十六日、京はちょうど花盛りでしたがね。同じ日に法然様は土佐へ向け、お師匠様は北国をさして御発足あそばしました。
良寛 法然様は今はどうしていらっしゃいますでしょう。
慈円 もうおかくれあそばしました。そのたよりのあったのは上野《こうずけ》の
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