たび》はあかく血がにじみましてな。
良寛 京にいられた時には草鞋《わらじ》など召した事はなかったのでしょうからね。
慈円 いつもお駕籠《かご》でしたよ。おおぜいのお弟子《でし》がお供に付きましてね。お上《かみ》の御勘気で御流罪《ごるざい》にならせられてからこのかたの御辛苦というものは、とても言葉には尽くせぬほどでございます。
良寛 あなたはそのころから片時離れずお供あそばしていらっしゃるのですからね。
慈円 私は死ぬまでお師匠様に従います。京にいるころから受けたおんいつくしみを思えば私はどんなに苦しくても離れる気にはなられません。
良寛 ごもっともでございます。(間)私は比叡山《ひえいざん》と奈良《なら》の僧侶《そうりょ》たちが憎くなります。かほどの尊い聖人《しょうにん》様をなぜあしざまに讒訴《ざんそ》したのでございましょう。あのころの京での騒動のほども忍ばれます。
慈円 あのころの事を思えばたまらなくなります。偉いお弟子たちはあるいは打ち首、あるいは流罪になられました。どんなに多くの愛し合っている人々が別れ別れになった事でしょう。今でも私は忘れられませぬのはお師匠様が法然《ほうねん》
前へ 次へ
全275ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング