慈円 なかなかの御苦労ではございませんね。
良寛 私は若いからよろしいけれど、お師匠様やあなたはさぞつろうございましょう。おからだにさわらなければようございますが。(親鸞のからだに手を触れて)まるでしみるように冷たくなっていられます。
慈円 この屋の家内は炉のそばで温《あたた》かく休んでいるのでしょうね。
良寛 主人はあまりひど過ぎますね。酒の上とは言いながら。
慈円 縁の先ぐらいは貸してくれてもよさそうなものですにね。
良寛 私は行脚《あんぎゃ》してもこのような目にあったのは初めてです。
慈円 お師匠様を打つなんてね。
良寛 私はあの時ばかりは腹が立ってこらえかねましたよ。お師匠様がお止めなさらぬなら打ちのめしてやろうと思いました。
慈円 あの手が腐らずにはいますまい。(間)お師匠様の忍耐強いのには感心いたします。私は越路《こしじ》の雪深い山道をお供をして長らく行脚《あんぎゃ》いたしましたが、それはそれはさまざまの難儀に出会いました。飢え死にしかけた事もありますし、山中で盗賊に襲われたこともありますよ。親知らず、子知らずの険所を越える時などは、岩かどでお足をおけがなされて、足袋《
前へ 次へ
全275ページ中36ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
倉田 百三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング