。お前が陰気な話ばかりするものだから。もっと酔わなくては。(酒を杯に二、三杯続けて飲む)
お兼 そんな無茶に飲むのはおよしなさいな。(左衛門を心配そうに見つつちょっと沈黙)私はほんとに心細くなるわ。(戸の外をあらしの音が過ぎる)ひどい吹雪《ふぶき》ですねえ。
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左衛門は手酌《てじゃく》でチビリチビリ飲んでいる。お兼は黙って考えている。松若は本を見ている。親鸞、慈円、良寛、舞台の右手より登場。墨染めの衣に、笈《おい》を負い草鞋《わらじ》をはき、杖《つえ》をついている。笠《かさ》の上には雪が積もっている。
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慈円 たいへんな吹雪になりましたな。
良寛 だんだんひどくなるようでございます。
慈円 お師匠様。あなたはたいそうお疲れのように見えますな。
良寛 おん衣の袖《そで》はしみて氷のように冷とうなりました。
親鸞 もう日も暮れてだいぶになるな。
慈円 雪で道もふさがってしまいました。
良寛 私はもう歩く力がございません。
親鸞 ではこのあたりで泊めてもらおうかな。
慈円 この家で一夜の宿を乞《こ》う
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