タしてまだ生きているのもあるよ。そのような時には長く苦しませずに首をねじって参らせてやるのだ。
お兼 私そんな話を聞くのはもういやですからよしてください。私のおかあさんは生きてるとき生き物を殺すのをどんなにいやがったか知れません。あんなに信心深かったのですからね。私などはおかあさんのしつけのせいか、殺生は心からいやですわ。あなたが庭で鶏をつぶしなさる時のあの鳴き声のいやな事といったらありませんわ。それに(松若のほうをちょっと見て)それに私はなんだかあのように松若の弱いのは、あなたが殺生をしだしてからのような気がするのですよ。
左衛門 そんなばかな事があるものか。お前の御幣《ごへい》かつぎにもあきれるよ。
お兼 それにあなたは、信心気がありませんからね。せめて朝と晩とだけはお礼だけでもなさいましな。私などは一度でも拝むのを怠ると気持ちが悪くていけませんわ。ほんに行く末が案じられますわ。このような事では運のめぐって来ないのも無理はありませんわ。
左衛門 仏様を拝んだところでしかたがないよ。わしは仏像と面《かお》を見合わせてすわるのがつらいのだよ。(間)今晩は変な気がしてちょっとも酔えないよ
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